熊野宗一(くまの そういち)
仰木家の専属運転手
CV:やじまのぼる
SAMPLE VOICE 01
キャラクター紹介
主人公と同郷の出身で兄のように接してくれる。
長身で立派な体躯の青年。
見かけに寄らず本好きな一面があり、主人公に色々と教えてくれる。
あらすじ
霧雨けぶる梅雨の頃、仰木家で使用人として働く主人公。
世間は物騒な事件で騒がしいが、優しい仰木夫婦や同僚に恵まれ、忙しくも穏やかな日々を過ごしていた。
そんな彼女は同じく仰木家の使用人として運転手を務める宗一に淡い恋心を抱いている。
宗一もまた、主人公のことを憎からず想っている様子。
ある日宗一から、ふたりで浅草へ出かけないかと誘われて……。

夢の夢こそ、あはれなれ―



※本作は二種類のエピローグトラックが収録されております。
お好きなエンディングを選んでお楽しみいただけます。
発売日
2018年8月31日(金)
定価
¥2,200(税抜)
JAN
4520424255962
品番
HBGL-010
シナリオ
アザミ白秋
イラスト
一野
企画・ディレクション
志水
ジャンル
女性向けシチュエーションCD
(18歳以上推奨)
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特典情報
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ドラマCD SAMPLE
ドラマCD
アナザーエピローグIF『人形の館』
アナザーエピローグの後に起こったかも知れない、『もしも』の物語。
※Hシーン有
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ドラマCD SAMPLE
ドラマCD
ブロマイド
エピローグアフター『夜半、前庭にて』
※Hシーン有
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ドラマCD SAMPLE
ドラマCD
SSペーパー
エピローグアフター『昼下がり、居室にて』
※Hシーン有
ショートストーリー

イヤア、弁護士の先生ではございませんか。コンニチワ。
……ハイ……アア……ナルホド……本をご所望でしたか。
イヤイヤ……昔から孤独な子供でしたので、本を読むことでしか暇を潰せなかったのです。ハハ。
それで、どんな内容の物を……ハア……そうですか……。
先生は随分と、センチメンタルな作品がお好きなようだ。フフッ。
ああッ……イヤッ……揶揄ってなんかいませんよ……これは失礼……。
そういった内容のものでしたら、幾つかございます。何冊お持ちしましょうか。
……ハイ……ハイ……では後程お持ちしますネ。

……他にもなにか。
一昨日の夜……サアテ……何をしていたやら……。ナゼ急に、そのようなことを仰言るのですか。
……エ……ハッ……ハハ……アハアハアハ。
ヤ……スミマセン……笑わずにはいられませんよ……。
勿論、巷を騒がしている事件のことは知っています。しかし私が……イヤイヤ……。
ダイタイ背の高い男なんて、この世に幾らでもいるじゃありませんか。それだけで疑われるなんて、たまったものじゃない。
ああッ……先生もしつこい御方だ……私は一昨日の夜……。

次男坊に泣かされた彼女が眠りに就くまで、傍らで慰めておりました。

エエ……ですからこれ以上は、深く聞かないで下さい……彼女との時間は、誰にも知られたくないのです……。
彼女の生い立ちはご存知でしょう。ナント哀れなことか……。
ケレドモ純真無垢で健気な彼女は、ナゼあんなにも愛くるしいのでしょう……。
惚気はいりませんか……イヤイヤ……ハハハ……。
ヤ……私もこれから旦那様をお送りしなければならないので、この辺で……。

アハハハハハッ。セイゼイ殺されぬよう、気を付けます。

屋敷の一角には図書室がある。仰木夫妻は本がお好きらしく、あちこちから集めたそれらが壁に埋め込まれた棚に整然と並んでいる。
休憩時間には好きに読んでいいと言われているのでこうして時折訪れる。
保管されたそれらが日焼けをしてしまわないように窓はなく、四方を殆ど全て本に囲まれ扉脇には西洋風の小ぶりな机と椅子が一揃いと椅子が数脚置かれているだけの空間だ。
物理的な静けさもあろうが、本を読んでいる間はまるで自分と世界だけが切り離されてしまうようで、そのたび訪れる果てしない静謐はとても居心地がよかった。
否、そうではない。誰かといる世界は居心地がひどく悪かった。ずっとそう感じていた――あの時までは。
「やあ、きみも休憩かい?」
顔を上げると彼女がいた。少しだけ開いた扉から恐る恐るこちらを伺っている。
この世で唯一、俺と世界の間に割って入ることのできるひとだ。
人好きのするであろう笑顔を浮かべて手招きすれば彼女はぱっと笑ってこちらへ駆け寄る。
聞けば休憩を貰ったはいいが次男坊の機嫌が悪くてどうにもちょっかいをかけられるからと逃げ場所を探していたらしい。
「それなら休憩が終わるまでここにいるといい。退屈なら読み聞かせをしてあげるよ」
彼女の休憩時間を独占できるならそれは僥倖だ。癇癪持ちのぼっちゃんに感謝すらしよう。
椅子を引き寄せ俺のすぐ隣にちょこんと座った彼女は頭ひとつ分程も俺より小柄で、旋毛が見えた。
「そうだな、何がいいだろう……」
最近読んだ書物の記憶から彼女の興味をひきそうなものを手繰り寄せる。
読んだばかりの本では申し訳ないと感じるのだろう、眉を下げた彼女の頭をそっと撫でた。
「面白い本は何度読んでもいいものだから、心配ないよ」
彼女といられる口実になるなら如何に退屈であろうと何千回でも同じ本を読み続けられると思ったが、それを口には出さなかった。
時折わからない言葉や固有名詞に質問を投げかけられながら淡々と読み進める。
どれほど時間が経ったのだろうか、段々と彼女の反応が薄くなっていったかと思えば不意に肩口に熱を感じて、ついにそこで言葉を止めた。
「寝ちゃったか……」
穏やかな寝息を立ている彼女を見下ろすと電球の赤みがかった光が落ち込んでそっと目元に影を落としている。その寝顔は実に安らかだ。
図書室は相変わらずひっそりとしていて、彼女は俺の肩に頭を預けている。窓のないこの部屋には外界の音も届かない、果てしない静謐。
「きみと、俺と、世界にふたりきりだ」
小さな頭にそっと唇を寄せる。
「できるなら、ずっとこのまま――」
甘い彼女の香りが胸を満たして、それより先の言葉は出てこなかった。

「愛している」 そう言って熊野は女を繋ぐ。
女を傷つけたくないのだと、全てから守りたいのだと言って女をこの部屋へ閉じ込めた。森の奥の朽ちかけた
洋館にふたりきり。時折熊野はどこかへ出かけては金を稼いで生活に必要なものを手に入れてくるが、その間女
は木板が打ちつけられた窓の部屋の、重苦しい扉だけを見据えて過ごした。ここへ来たばかりの頃、ひとりで扉
を開けようとした女に熊野は仰木の人間の鏖殺を提案した。それから女は熊野にずっと繋がれている。

「愛している」 そう言って熊野は女を抱く。
子を成すことに対して異常なほどの執着を見せる。孕め孕めと、女の胎に吐き出した欲望の逃げ場を塞ぐよう
に、終えてから数時間もそれを抜かないこともあった。一方で子ができることへの恐怖も見せた。女を奪われる
のではないかと。母性の芽生えた女が己から逃げるのではないかと。そうなったら子など生まれる前に殺してや
る、と、胎の中からめちゃくちゃに欲望を掻き出したこともあった。女が気をやるま――気をやっても。元より
少々嗜虐的な質ではあったが、想いを交わしたばかりの頃からは想像もできないほど苛烈に、熊野は女を抱いた。

「愛している」 そう言って熊野は女に詫びる。
時折正気に戻ったような顔で熊野が微笑むことがある。まるで女が宝物か何かに思えるような愛しげな顔だ。
そういう時は決まって直後に熊野は女に対して手をついて見せる。そうして、本当に申し訳ない、こんなことを
して許されるとは思っていない、俺は最低の鬼畜だ、死んで詫びるべきだ、意気地のない男だ、と気が触れたよ
うに語った。延々と己を詰り、蔑み、泣きながら熊野は女に詫びた。

「愛しています」 それは呪詛だ。
梅雨の頃はとうに過ぎ、秋が過ぎて冬を越え、春が訪れ再び夏が終わった。深まった緑も今は枯れ、開くこと
のない窓の外の風景は再び徐々に寂しくなっていく。一枚づつ剥がれ落ちる葉を日々眺めながらこれはまるで己
の心のようではないかと女は思った。女は虜囚であり、窓には木板が打ちつけられているが、これは外界から彼
女を守る意味合いの方が大きかった。ひとつきりの扉も今はもう鍵などかかっていないことを女は知っているが、
彼女を繋ぎ留めるのは鎖や檻ではない。大恩ある元雇い主一家を質に取られていることも関係ない。

女は熊野を愛していた。彼がとうに狂ってしまっていることを理解してなお、熊野への思慕を、彼自身を捨て
置くことはできなかった。愛と言う呪詛で、女は虜囚であり続けた。